日本における学習塾フランチャイズからの脱会に関する調査レポート

学習塾フランチャイズ加盟から脱会したい教室の実態と理由

要約

本レポートは、日本における学習塾フランチャイズから脱会したい、あるいは実際に脱会した教室の実態について調査した結果をまとめたものです。調査の結果、日本全体では年間約200-500教室程度が学習塾フランチャイズから脱会していると推計されます。脱会の主な理由としては、経済的要因、運営方針の不一致、市場環境の変化、契約上の問題、独立志向の高まりなどが挙げられます。特に近年は少子化の進行や教育ニーズの多様化により、フランチャイズ契約の制約の中で経営を続けることの難しさが増しています。

調査の背景と目的

調査の背景

日本の教育産業において、学習塾は重要な位置を占めています。その中でも、フランチャイズ方式で展開する学習塾は、ブランド力や運営ノウハウを活用できることから、教育業界未経験者でも参入しやすいビジネスモデルとして普及してきました。しかし近年、少子化の進行や教育ニーズの多様化、オンライン学習の普及などにより、学習塾業界を取り巻く環境は大きく変化しています。このような状況の中、フランチャイズ契約から脱会し、独自の経営を目指す教室も増えていると言われています。

調査の目的

本調査の目的は、以下の点を明らかにすることです。

  • 日本における学習塾フランチャイズからの脱会数の実態
  • 脱会を検討・実施する主な理由
  • 脱会に関連する傾向や特徴

脱会数の統計と推計

具体的な統計データ

現時点で日本全体の学習塾フランチャイズからの脱会数に関する公式統計は限られていますが、いくつかの具体的なデータが確認できました。

スクールIEの契約中途終了数

  • 2021年度: 21教室
  • 2022年度: 23教室
  • 2023年度: データ確認中

学習塾業界全体の倒産件数

  • 2023年: 45件(前年比28.5%増)
  • 過去20年で最多の件数
  • 2018年: 42件(それまでの過去最多)

脱会数の推計

限られたデータから、日本全体の学習塾フランチャイズからの脱会数を以下の方法で推計しました。

スクールIEの事例を基にした推計

スクールIEは年間約20-23教室が契約中途終了
日本の主要学習塾フランチャイズは約10-15チェーン程度
単純計算で年間200-345教室程度が脱会している可能性

倒産統計からの推計

2023年の学習塾倒産件数は45件
倒産は脱会の一部の形態であり、経営困難による脱会はこれより多いと推測
倒産以外の理由による脱会を含めると、年間100-200教室程度の可能性

業界全体の規模からの推計

日本の学習塾の総数は約5万件(個人経営含む)
そのうちフランチャイズ加盟教室は約1万件程度と推定
一般的なビジネスの年間退出率(3-5%)を適用すると、年間300-500教室程度

以上の推計から、日本全体では年間約200-500教室程度が学習塾フランチャイズから脱会していると考えられます。

脱会の傾向

  • スクールIEの場合、2021年から2022年にかけて脱会数が約9.5%増加(21→23教室)
  • 学習塾全体の倒産件数は2022年から2023年にかけて28.5%増加
  • 2018年と2023年に学習塾の倒産件数が過去最多を記録するなど、近年、脱会・倒産の傾向が強まっている

脱会の主な理由

1. 経済的要因

ロイヤリティの負担

フランチャイズ契約では、売上の一定割合または固定額をロイヤリティとして本部に支払う必要があります。例えば、明光義塾は売上の20%、個別指導塾スタンダードは固定ロイヤリティ制を採用しています。収益が思うように上がらない場合、この負担が経営を圧迫する要因となります。

初期投資の回収困難

加盟金、研修費、内装工事費など、開業時に多額の初期投資が必要です。生徒数が想定を下回ると、投資回収が困難になり、経営継続が厳しくなります。特に少子化が進行する地方では、生徒獲得の競争が激化しており、初期投資の回収がさらに難しくなっています。

追加費用の発生

本部指定の教材購入費、システム利用料、広告宣伝費など、想定外の費用が発生することがあります。また、本部の方針変更により、新たな設備投資や改装が求められるケースもあり、経営の負担となっています。

2. 運営方針の不一致

本部の過度な介入

教育方針、営業時間、料金設定など、細部にわたって本部の指示に従わなければならないことが多く、地域特性に合わせた柔軟な運営ができないことへの不満があります。過度な売上ノルマの設定や、営業時間の強制延長などのケースも報告されています。

サポート体制の不足

契約前に約束されたサポートが十分に提供されないケースがあります。生徒募集や教育指導に関する実践的なサポートが不足していたり、問題発生時の本部の対応が不十分だったりすることへの不満が脱会理由となることがあります。

パワハラ問題

本部からの一方的な指導・圧力や、「他の加盟店はできているのだから」という比較による精神的プレッシャー、スタッフの採用・解雇に関する不当な介入などのパワハラ問題も報告されています。

3. 市場環境の変化

少子化の影響

学齢人口の減少により、生徒獲得の競争が激化しています。特に地方や郊外では、経営の維持が困難になるケースが増加しており、2023年の学習塾倒産件数は45件と過去20年で最多を記録しました。

教育ニーズの多様化

オンライン学習の普及やプログラミング教育など新たな教育ニーズへの対応が求められる中、フランチャイズ本部の教育方針が時代の変化に対応できていないケースがあります。

競合の増加

個人経営の塾や新たなフランチャイズチェーンの参入による競争激化、価格競争の激化による収益性の低下、差別化が難しくブランド力だけでは生徒を集められない状況などが、脱会を検討する要因となっています。

4. 契約上の問題

契約期間と解約条件

多くのフランチャイズ契約は5年や10年などの長期契約であり、中途解約には高額な違約金が設定されていることが多いです。また、解約禁止期間が設けられており、すぐに脱退できないケースも多く見られます。

競業避止義務

契約終了後も一定期間(数ヶ月〜3年程度)は同業他社での勤務や独立が制限されることがあります。これにより、教育業界での経験を活かした再出発が難しくなり、地域によっては生活基盤を失うリスクもあります。

情報提供義務違反

契約前の説明と実際の運営状況に大きな乖離がある場合、収益予測や生徒数の見込みが過大に説明されていたケース、本部の実績や支援体制について誤解を招く説明があったケースなどが、脱会の理由となることがあります。

5. 独立志向の高まり

独自ブランドの構築意欲

フランチャイズでの経験を活かし、自分の教育理念に基づいた塾を運営したいという意欲や、地域特性や生徒のニーズに合わせたカリキュラム開発への意欲、本部のブランド力に頼らず自らの教育実績で勝負したいという思いが、脱会の動機となることがあります。

収益性の向上期待

ロイヤリティ支払いがなくなることによる収益性の向上期待、教材や設備の選択の自由による経費削減の可能性、料金設定や営業方針の自由化による収益機会の拡大などが、独立を目指す理由となっています。

経営の自由度拡大

教育方針、採用、営業時間など、あらゆる面での意思決定の自由、地域のニーズに合わせた柔軟な対応が可能になること、新たな教育サービスの開発や他業種との連携など事業拡大の自由度が得られることも、脱会を検討する理由となっています。

フランチャイズ契約の終了方法

契約期間満了による終了

フランチャイズ契約においては、多くの場合、契約期間が定められています。その契約期間が満了することによって契約は終了しますが、通常は「契約期間満了の●ヶ月前に契約を更新しない旨の通知を行わない場合には、契約は自動的に更新される」といった内容の自動更新条項が定められているため、期限内に不更新の通知を行う必要があります。

中途解約条項による解除

フランチャイズ契約の中に、加盟店側の都合で期間途中に一方的に解約することを認める「中途解約条項」がある場合、これに従って契約を終了させることができます。ただし、違約金や解約一時金など、一定の金銭の支払いを条件としている場合が少なくありません。

債務不履行解除

フランチャイズ本部に、フランチャイズ契約上定められた義務の違反(債務不履行)があるという場合には、これを理由に契約を解除することができます。債務不履行解除について、フランチャイズ契約上に規定がある場合も、ない場合もありますが、たとえ規定がなくとも、民法の一般原則に基づき解除が可能です。

合意解除

契約期間満了を待たずに契約を終了させることも、フランチャイズ本部と加盟店の双方が合意すれば可能です。ただし、通常はフランチャイズ本部は無条件に契約を終了させることに合意することは少なく、加盟店に対して何らかの金銭の支払い等を条件とすることが多いです。

結論と考察

脱会数の増加傾向

限られたデータからの推計ではありますが、日本全体では年間約200-500教室程度が学習塾フランチャイズから脱会していると考えられます。また、近年は脱会数が増加傾向にあることが示唆されています。

脱会理由の多様性

脱会の理由は単一ではなく、経済的要因、運営方針の不一致、市場環境の変化、契約上の問題、独立志向の高まりなど、多岐にわたっています。特に、少子化の進行や教育ニーズの多様化といった市場環境の変化に対して、フランチャイズ契約の制約の中で柔軟に対応することの難しさが、脱会を検討する大きな要因となっています。

今後の展望

学習塾業界は今後も少子化の進行や教育のデジタル化など、大きな変化に直面することが予想されます。このような環境下では、フランチャイズ本部と加盟店の関係性も変化していく可能性があります。加盟店の自由度を高めつつ、本部のサポート体制を強化するなど、新たなフランチャイズモデルの構築が求められるかもしれません。

参考文献・情報源

  1. スクールIE - フランチャイズ契約の要点と概説, 日本フランチャイズチェーン協会, 2024年6月1日
    https://www.jfa-fc.or.jp/fc-g-misc/pdf/76-1.pdf
  2. フランチャイズの解約・脱退方法は?, 弁護士によるフランチャイズトラブル相談, 2023年4月13日
    https://support-d1.net/franchise/withdrawal/
  3. フランチャイズ塾の実態!パワハラ・契約トラブル・失敗事例を徹底解説, グリッドベース, 2025年2月24日
    https://www.grid-based.com/?p=3780
  4. 個別指導塾のフランチャイズは辞められる?契約を終了させる方法, 2021年5月31日
    https://kobetsujuku-fc.info/column/end/
  5. 2023年の学習塾倒産 過去20年間「最多」の45件 市場拡大も, 東京商工リサーチ, 2024年2月14日
    https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198374_1527.html
  6. これからの塾経営は難しい?成功へのカギと安定経営のポイント, 2023年1月30日
    https://heros-hd.co.jp/1756/
  7. 特定サービス産業実態調査 【27学習塾】, e-Stat 政府統計の総合窓口
    https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?query=%E5%A1%BE&layout=dataset&statdisp_id=0003187185